中澤秀一インタビュー

このページは2024年12月23日におこなった、インタビューの全容を掲載したものです。

話し手=中澤 秀一(静岡県立大学短期大学部准教授)
聞き手=小泉 治(静岡自治労連書記長)
(本文では、中澤准教授を「中澤」、聞き手の小泉書記長を「自治労連」と表記)

 

物価高騰で多くの国民が苦しみ、「物価高騰を上回る賃上げ」を求める声が大多数となるなか、2025年国民春闘では、最低賃金の大幅引き上げと全国一律最賃制度の実現が焦点になっています。
賃金と社会保障、また最賃運動の基礎となっている最低生計費について、静岡県立大学の中澤秀一准教授に聞きました。

中澤 秀一(なかざわ しゅういち)

1967年生まれ。静岡県立大学短期大学部社会福祉学科准教授。専門は社会政策、社会保障。2010年以降、静岡県をはじめ、全国の最低生計費試算調査で監修を務める。2019年に最低生計費研究の第一人者として自民党最低賃金一元化推進議員連盟のヒアリングに招かれた。近著「最低賃金制度の再考―生計費視点からの見直し」(『社会政策』第15巻第3号、ミネルヴァ書房、2024年)

 

中澤
最初に逆質問なんですけど、なぜ自治労連が最低賃金を取り上げるんですか。

自治労連
理由は二つあって、一つはまず最低賃金の課題っていうのは、もともと公務の賃金にものすごく影響していたのですが、それが表だって分かるところに、最低賃金が影響し始めたというところが多くなってきたことです。一つは会計年度任用職員、もう一つは地域手当です。
特に、地域手当はいままでは自治体ごとに決まっていた。地域手当は、県内にも0%から15%の自治体があって、今後、一応、静岡県内は全体として4%になります。静岡市は8%になるんですが。
もう一つは、この間、今まで全国4ランクだった最低賃金が3ランクに圧縮されました。これはやっぱり地域間格差が大きすぎるっていうことがものすごく言われて、それは地域手当の問題も同じですよね。だから最低賃金が圧縮されたっていう動きと、今回の地域手当が県単位に大くくり化されたのって同じ流れだと思っています。

中澤
なるほど。

自治労連
最低賃金を、自治体の労働組合でやりたいというのは、その二つの理由です。最低賃金の話をするんだったら、当然、生計費なしは考えられないので…ということで、今回の話ってことなんです。

中澤
なるほど。分かりました。腑に落ちました。

自治労連
中澤先生もご承知だと思うんですけど、一応、人事院勧告でも生計費は一応原則だけど、ほとんど無視されている実態というのがあるわけです。

中澤
まず労働者が持っているのが労働力という商品で、その労働力という商品を売って賃金に換えて生活しているわけです。その時に労働力を売って賃金に換えているわけですけど、その時の労働力の商品の価値が労働力の再生産ですよね。それがまさに生計費になります。だから賃金とは生計費そのものだということですよね。

自治労連
だから、生計費原則というのは何かということを説明するときに、労働力の再生産が必要だからというのはよく言われるけれど、要するに働いている人たちが次に働けるようにするために必要なものを作るための経費というかお金というか、それが生計費という、そういう意味でよろしいですよね。

中澤
そういうことです。
だから労働力の再生産というのは自分自身だけじゃなくて、 次世代も含めてということなので、もっと大きい意味です。

自治労連
自分の子どもなどにかかる費用とか。

中澤
そうです。いずれもなかったらもう途絶えてしまうので。ずっと労働者が居続けるために、存在するためには生計費原則がやっぱり重要だということです。

自治労連
「次世代も含めて」はいいですね。労働力の再生産のために必要にかかる経費、費用。明日も自分が働いて、きちんと自分がやらなければならない仕事をするために必要な、例えば食事だったり睡眠だったりというものを、生活を営んで労働力の生産をするために必要な経費、それが生計費ですね。

中澤
ただ、その中に衣食住だけじゃなくて、そういう健康的なものとか文化的なものっていうものも、本来ならその中に入ってなきゃいけないはずなんですよね。だからそれも含めてっていうことで、普通の生活、くらしのための費用という見方もできるのかなと思います。

自治労連
そこに健康で文化的な生活をっていうのを、憲法の原則に当てはめた時にどういう費用になるかっていう。

中澤
だからまあ、25条というかね、生存権っていうものが、この生計費の中には多分に含まれている要素があると思うんですね。

 

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「標準生計費」と「最低生計費」

 

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