中澤秀一インタビュー(3/8ページ)

自治労連
次の課題ですが、特にこの3年ぐらいの物価高騰で、1.5倍だ、2倍だ、と物価が上がっています。多くのところが最低生計費試算調査をしていたのが2010年代ということですが、この物価高騰によって、最近になって最低生計費の調査をしたところでは数字が上がっているんでしょうか。

中澤
生計費は確実に上がっています。2022年を境に物価高騰しているので、その後に生計費調査をしたところは、確実に生計費が上昇しているっていうのが見えてくるわけですけど、一番わかりやすいのは、 埼玉が2016年にやって、その8年後の2024年に,もう一回アップデートで全く同じやり方で調査しました。ですから単純に比較できるわけなんですけど、埼玉は、8年前と比較すると、税金・社会保険有料抜きの生計費で見たときに13.6%上昇していたんです。

自治労連
実数で13.6%はすごいな。

中澤
そうですね。だから8年間でそれぐらい物価が上がった。もちろん賃金が13.6%ぐらい上がっている労働者ももちろんいると思います。でも全く上がってない労働者もいるわけで。だから労働者全体で見ると実質賃金は下がっているということになるわけですよね。

自治労連
なるほど。24人事院勧告で見ても、いちばん上がった初任給水準であっても、11%ぐらいなので、だからすごく上がったと言いながらも、実は物価高騰にも追いついてないという。

中澤
少なくとも物価高騰以上に上げなければ、賃上げしたことにはならないので。

自治労連
そうですよね。物価の話だと、例えば食糧品だとこんなに上がった、エネルギーだとこんなに上がったという数字がよく出ますが、でも「実際、ならしてみたらそんなに上がってないでしょ」みたいに思っている人って結構いると思うんです。だけど、それこそ信頼できる最低生計費で13.6%というのは…。いま、数字を聞いてびっくりしました。

中澤
でも、感覚的にそれぐらい上がっているんだろうなっていうのはあって、やはりこの2022年以降の物価の上がり方って、それまでがほとんど変わらないような感じなので、物価ってあんまり変わらないものっていうイメージがあったと思うんです。

自治労連
少しずつ上がっているような気がしましたけど…。

中澤
本当に目に見えて2022年から上がりだしたので。それが食費とか水道光熱費とか、そういったものが特に上がっているんです。上がった項目でいうと。もちろん、通信費、携帯電話の通信費とか下がってるものもあるんですけど、すごく大きく上がったのが、生活に直結しているものなので。ガソリンとかすごく上がっているっていう感覚が強いと思うんです。

自治労連
2022年の頃の電気代の上がり方にみんな驚愕しましたね。
いままで月額5000円とか6000円だったのに、1万何千円って…。

中澤
すごい上がり方でしたね。
大学でも、冷暖房とかそういうのをかなり節約するように…、いままでそんなこと言われたことなかったのにって。

自治労連
この間、少し削られてしまいましたけれど、国が補助を出しても、それでも高いっていうのがあったのが、また、ここで一段階、上に上がってしまった感じがしますから。

中澤
また影響出てくるんじゃないでしょうか。物価高騰も落ち着く、落ち着くって言われてきたけど、なかなか落ち着かないですよね。

自治労連
毎月末と月初めには、「来月からこれが上がります、今月はこれが上がりました」みたいなニュースが定番になってきているんですね。

中澤
価格転嫁をしているということなので、物価が上がること自体は別に悪ではないと思うんですよ。だから上がった時に賃金も同じように上がっていれば、購買力も上がっていくわけなので、影響はないはずなのですが、なかなか賃金の上がり方が鈍いので、どうしても物価高騰が生活を直撃しているというのを拭いきれないですよね。
でも、それは中小企業の経営者の皆さんも、多分そうだと思うんですけれど、先日、東京文京区でお豆腐を作っている豆腐店さんにお話を聞きにいきましたけど、やはり燃料というか、ボイラーとかの費用の上がり方がすごいと。ちゃんと豆腐の値段を上げているんですけども、エネルギー価格の高騰とか人件費の高騰ほど、なかなか転嫁はできていないという話をされていて、やはり苦しいという思いはあると思います。

自治労連
これだけ物価が挙がっているんだから、労働組合としては賃金を上げなきゃならないというのは言っていくし、当然、そうしてこないと困るんですけど。もっと言うと、モノを作っている人たちの賃金も当然上がるわけだから、それが転嫁されなかったら、では誰が負担しているかという話ですからね。

中澤
やっぱり価格転嫁されるという循環というか、流れをきちんと作らないと、結局、生活できない。いままでは「安ければいいだろう」という基本的にデフレ経済できたところが、ツケがまわってきているのが、今じゃないのかなって思います。

自治労連
とにかく何でもモノが安ければいい、みたいな形でずっとやってきてたって思うんですよ。

ラストマイル(2024年製作の映画)
上映日:2024年8月23日/製作国:日本/上映時間:128分/配給:東宝
あらすじ
流通業界最大のイベントである11月のブラックフライデー前夜、世界規模のショッピングサイトの関東センターから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生し、やがて日本中を恐怖に陥れる連続爆破事件へと発展する。関東センター長に着任したばかりの舟渡エレナは、チームマネージャーの梨本孔とともに事態の収拾にあたるが…。(公式サイト

中澤
「ラストマイル」って映画を観ました? ぜひ観てください。ラストマイルは、あれは、結局、米国資本の配送業者を皮肉っていると思うんですけど。結局、みんなポチッと送料無料で買うんじゃないですか。安くていいんだけど、結局その送料を誰が被っているかといったら、現場の労働者なんですよね。
現場の労働者の賃金が下がってくれば、結局、購買力が落ちて生活が苦しくなっていくと。また安いものを買わなきゃいけなくなってくるという悪循環になってしまうので、買う時にはやはりそれなりのお金を払って、それが労働者に還元されて、労働者が生活できるという風にしなきゃいけなかったのに、我々は「安ければいい」という社会というか、経済にしてきてしまったということです。責任の一端は、結局、我々にあるんだと思うんですよね。

自治労連
そう思いますね。無料で物が運べるなんてことはありえない。それをどういうふうに捻出されているのかっていうのを分からせる意味でも、「送料無料」という言葉を使うのを禁止した方がいいみたいなことを言った学者がいるんですけど。

中澤
この映画の中でも、配達しているのが社員じゃなくて、まさにプラットフォームワーカーなんですよね。個人事業主が、最後、末端でラストマイルっていう。お客さんのところでラストマイルになっているのが、本当に1個運んで150円って単価で、運ばなければそれが発生しないという、そこになっている人たちがやっているんだということで。それが映画では爆弾事件が起こって、それがストップしちゃって、麻痺するというか、日本の動脈が止まるみたいな感じになって、そういう問題があからさまになるんですが、彼らはストライキするんですよ。単価は30円くらいですけど、でも、ちゃんと上がるんです。賃金を上げろと声を上げるということが大事だという、そこが描かれているというのは、とてもいい意味がある。いまの社会が、安いことがいいだろうっていうことが起きちゃった。やはりそこは転換しないといけない。

自治労連
なるほど、そういう内容か。

中澤
末端の労働者たちにしわ寄せがいって、一部の大企業がそれで利益を上げていくという構図になっている。それで成り立っている経済は、やはりおかしいなっていうふうに思わないといけない。そういうきっかけになればいいのかなって。

自治労連
配送業者の配達員が1日に何個の荷物を配達して、1日あたりいくらの金額をもらっているのかって多分みんな知らないと思う。

 

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新自由主義の行き着く先が、大企業・富裕層だけが栄える社会

 

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