特別鼎談「災害に強い自治体をつくるために」

このページは2020年1月17日におこなった、村山和弘さん、杉岡一宏さん、菊池仁委員長による鼎談の全文を掲載したものです。

参加者
村山 和弘(伊東市職労連、事務職・産業課)
杉岡 一宏(島田市労連、事務職・危機管理課)
菊池 仁(静岡自治労連執行委員長)

 

台風15号で被災した伊東市池地区。水田一面が水没して湖のようになってしまっている(2019年9月)

近年、日本各地で異常気象や大規模な自然災害が頻発し、住民生活をおびやかしています。2018年の西日本豪雨は、非常に広い範囲で河川の氾濫や浸水害、土砂災害が発生し、死者数が200人を超えるなど、きわめて甚大な被害を各地にもたらしました。昨年も台風15号・19号が猛威を振るい、関東、甲信、東北地方を中心に、多くの死者や負傷者、甚大な建物被害のほか、交通やライフライン、農林水産業などにも深刻な影響を与え、静岡県下でも東部を中心に被害があいつぎました。各自治体ではあいつぐ自然災害を前に、その対応がきわめて重大な課題となっています。
この間、各自治体では職員の大幅削減や非正規化、現業職場の民間委託などが押しすすめられ、その結果自然災害に対する自治体の対応力の弱体化が言われています。また、国の「自治体戦略2040構想」では、AIの活用で自治体職員を半数にまで減らそうという議論がありますが、果たしてAIで地域住民のいのちと生活を守ることができるのでしょうか。
わたしたち自治体・公務公共関係労働者は、地域住民のいのちと生活を守ることが使命です。災害に強い自治体をつくるために、わたしたちは何をすべきでしょうか。
昨年の台風で災害対応に奮闘した仲間から話を聞きました。

 

菊池 昨年、台風15号、19号が静岡県に来ました。全国的には台風15号のときは千葉県、19号のときは長野県などが大きな被害を受けたのですが、静岡県でも東部を中心に大きな被害がありました。
おふたりは昨年の台風で、業務としてどのような災害対応をされた、あるいは災害支援ボランティアに行かれたなど、経験をお聞かせください。
まずは杉岡さんにお聞きします。台風15号のときも19号のときもボランティアに行かれたんですか?

杉岡 そうですね。島田市は台風が直撃するようなルートだったので、当日は災害対応の体制で詰めました。幸い島田市では大きな被害が出ることなく、一通り体制を解除して終わることができましたが、思っていたとおり各地で大きな被害が出てしまいました。
19号のときにすごくわかったことがあります。自治体の職員は、普段の通常業務があるなかで、災害時には通常業務に加えて災害対応にあたらなければなりません。自分の職場は危機管理課なのですが、危機管理課の業務はあくまで防災の仕組みづくりだとか、体制を構築するものであって、実災害になったら僕らだけで何でもはできません。
少ない人員のなかでどうしていくかも課題です。たとえば災害が長期化したときに、どのように職員のシフトローテを組んでいくかという問題がありますが、まだそうしたところまではできていません。仮に被害がそんなにない状態でも、職員から「こんな使われ方をされるはずではない」といった意見が上がってきます。
被災自治体では、初動対応とか、一通り落ち着いたあとの復旧・復興など、職員の負担が非常に大きなものになります。そうした負担により役所の職員が疲れ果ててしまったときに、いちばん被害を被るのは住民なんですよね。
僕は「そうした負担を減らすために何かできることはないか」と思い、一般ボランティアとして、昨年は佐賀県や千葉の袖ヶ浦に行きました。また、自治労連の災害支援ボランティアで館山にも行かせていただいたのですが、どこもものすごく大変でした。それこそ、昨年倉敷にも行きましたが、(西日本豪雨の)被災から1年経っても何も変わっていない現状があります。
そうしたなかで、私は「もし島田市で同じことが起きたときにどうしたらいいか」ということを考えながらボランティアに参加しました。

菊池 そこでは具体的にどんな作業をされたのですか?

杉岡 一般ボランティアで行くと、社協が立ち上げる通常のボランティアといっしょで、やったことは床下に潜って泥を掻き出したりとか、空き家で家主が来なくて対応が遅れた家から腐った家具を運び出したりとかでした。行政が復旧・復興をすすめようとしても住民がなかなかそれについていけない状況があります。
また、罹災証明の発行など行政が滞ってしまい、なかなか住民が何をしたらいいのかわからない状況のなかで、「今後こういうふうになっていくからがんばって」というような声掛けをさせていただきました。

菊池 ありがとうございます。村山さんはご自分の業務に関するところで力を発揮されたと聞いていますが、いかがですか。

伊東市池地区では、土砂崩れで川がせき止められ、田んぼ約27ヘクタールが冠水

村山 そうですね。私は今年度4月に今の部署(産業課)に異動になりました。それまでの部署でも災害対応の経験はなく、今の部署に異動してはじめて災害を経験しました。
昨年9月に台風15号が襲来し――伊東市の池地区というところがあるんですけど――そこの農地が被害を受け、地区にある水田一帯が冠水するといったことが起きました。伊東市では近年大規模水害の事例がなかったこともあり、初動段階においてどういうことが起きたのかなかなか掴めず、地元の方からの連絡で現地に行ってはじめて大変なことになっているということがわかりました。
私は現地で今、何が起こっているのか、現場に行った職員から聞いた状況を県や関係部署に報告するということを初動で行っていました。私自身災害経験があるわけではないので、現場で起こっている状況のイメージを掴むことに非常に苦労した覚えがあります。聞けば聞くほど「大変ことが起こっているんだ」というのが正直な感想でしたね。
現場は刻々と状況が変化し、次から次にいろいろなことが起きるなかで、とにかく目の前の冠水をなんとかして復旧させるためには何をすればベストなのか。私を含め職員の多くが大規模水害の経験がないなかで、どこに連絡を取って何を要請すればいいのかということもわからない。危機対策部門が作成したマニュアル的なものはありましたが、当たり前ですが災害はすべてがマニュアル通りにいくわけではなく、必ずそのとおりにやれば解決できるというものではないですから、現場サイドはかなり苦労していました。
うちの場合は課長と担当が直接現地に行ってずっと詰めていました。私も被災から1~2週間近く経って、ある程度内部が落ち着いてから現地に行ったのですが、そこでもずっと報告と連絡を繰り返していました。伊東市でかなりひどい被害が出ていることを県も把握しはじめると、いろいろなところからの「何が起こっているんだ」という問い合わせに回答するとか、地元の方からの「今どんな状況なんですか」という問い合わせにみんなで対応するとか、正直なところかなり混乱がありました。
ひとつ思ったのは、伊東市はもともと地震が多い地域ですから、地震に関してはある程度危機対策や防災訓練など、日々やっていることのベースや、過去からの積み重ねがあるのですが、風水害の災害対応の経験がないことに対して、異常気象で今後も風水害の頻度が高まっていることを考えると、こういったときのシミュレーションも必要になってくるのかなと思います。
あのときも、初動は大雨警報が出たときの一般的な体制だったのですが、これまでは多少被害があっても限定的なもので――たとえばどこかで土砂崩れがあっても、とにかくそこを対応すればなんとかなるパターンがほとんどで、今回のようにあちらこちらで同時多発的に被災するようなことはありませんでした。だから今回のように、あちらこちらで大きな被害が出ている、道路や水道など生活のインフラも止まってしまうなどの問題がいっぺんに起きてしまうと、先ほど杉岡さんが言われたように、それを同時に処理することができずにひどく混乱してしまいます。だから今回の件で、もしそういうことが起きてしまったときに、まずどのように体制を整えるべきなのかなどのノウハウを学ぶことやシミュレーションの必要性を考えさせられました。

 

次のページ >>
地震と水害では対応がまったく異なる

 

前のページ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 次のページ

▲ このページの先頭にもどる

© 2017 - 2024 静岡自治労連(静岡自治体労働組合総連合)