特別鼎談「災害に強い自治体をつくるために」(6/9ページ)

土砂が流れ込み、塞き止められてしまった隧道を重機を使って復旧(伊東市池地区)

村山 実際に、今回の台風15号のときは、被災した池地区においては、「とにかく冠水状態を早く解消する」というのが第一優先でした。しかし解消しようにも、排水のための隧道(トンネル)が土砂などで埋まってしまい、詰まりを解消するにはとにかく時間がかかる。「じゃあ代わりにポンプで水を別のところに移そう」となっても、「じゃあそのポンプをどこから調達するのか」ということを含めて、現場でその都度「こういうところにツテがあるから相談してみたらどうだ」みたいなヒントを得ながら、なんとかやっていったんです。
本来だったら、先ほど話にあったように伊東市から島田市に協力の要請をするとか、ゆとりのある判断ができればいいのですが、なかなか時間的にも精神的にも余裕のない現場サイドではそうした判断は難しい部分があります。だから事前にそういった事態をシミュレーションして、本当に自分たちの手持ちだけではにっちもさっちもいかなくなったときに、外部のどこにどういう段取りで依頼するということを事前に準備できていれば、また違うのかなと思いますね。
また、災害が収まって、じゃあこのあと本格的な復旧工事をどうやっていくかとなったときに、今回の台風15号、19号のように広域で被害が起こると、その工事を発注する業者がそもそも見つからないということが起こります。また、その工事を行うために必要な設計書も、設計ができる職員は現場でかかりきりになり手一杯になってしまって、業者もほかの自治体からの依頼で埋まってしまっている。かといって市は一本釣りみたいなかたちで業者に頼むことはなかなかできないので、そうしたことを考えると突発的に起こることに対して臨機応変の動きは難しいですね。そもそも民間に依頼するといっても、当然行政は行政のルールがあり、それに基づいて契約をしなければいけないので、「今すぐにでも動きたい、でもルールも大事」というジレンマはありますね。
台風19号のときに伊東市漁港で2カ所ほど消波ブロックが港のなかに転がってしまって、被害を受けたのですが、海での工事のような特殊な工事や設計になってしまうと、当然市内の業者でそれができるところはなかなかありませんし、じゃあ市外の業者に頼もうにも、県内・全国的にもできるところはそんなに数がない。そもそもどこなら依頼できるのかわからないなかで、そういった設計の仕事を頼む先がなかなか見つからないということが事例として起こっています。
伊東市の場合だと、施工に関しては建設業組合とかと協定を結んでいるのですが、設計など工事着手の前段のようなものについては協定がないので、今回みたいなことがあると、そうしたものも事前に結んでおく必要があったのかなと思います。
被害が伊東市だけのことであれば、どこか他の被害のなかったところの業者にお願いしてということが考えられるのですが、今回の千葉のように大きく被害を受けたところがあって、そちらに業者を取られてしまうということになると、今まで考えもしなかったことが実際問題として起きていますね。

杉岡 実際にその予算がない場合も執行できないですよね。

村山 そうですね。

杉岡 あとでなんとかなるからといっても、やはり役所なので、契約する段階でちゃんと予算を確保してからやりなさいということになります。とはいえ災害救助法が適応されるのかどうか、国費が入るのかどうかでも変わってくる。それも災害が起こった時点ではまだすぐにはわからないので、そのあたりも絡んでくるとなるとなおさら難しいですね。

村山 今回、私たちも財政との連携になかなか頭がいかなかったというか――本来、私が財政とかとやり取りをする立場なんでしょうけど――現場としては予算のことは二の次で、地元の住民のことを考えると、とにかく業者に頼んで動いてもらわないと――

杉岡 そうですよね。

村山 現場サイドでは「予算がつかないから、今日は何もできません」というわけにはいかない。しかし現実問題としてそこをどうするのか。とにかく今日の今日で予算を配当してほしいと財政部門に相談して、じゃあそれをどこから持ってくるんだとか、予備費を充てるのか、それとも予算を専決するのかなど、誰もがこうした経験がないなかで、しかし即判断が求められるようなことを、関係部署と一体になって決めていかなければならない。

杉岡 そうなんですよね。たとえば予備費を使うにしても事前に手続きや議会への報告が必要ですし、

村山 それで予算を充てるにしても、じゃあいくらあれば足りるのかとか。

杉岡 役所の財務規則や地方自治法とも合致しない状況のときに、役所の人間としてどうしたらいいのかという問題はありますね。これが民間だったら「決算で合えばいいからやりなさい」というのができると思うんですけど、役所ではなかなかそうはいかない。

菊池 お金の裏付けがないことはできないですからね。

村山 行政は法令遵守が当然なので。ただ、現場では刻一刻と状況が悪化したり、「早く改善しろ改善しろ」「とにかく早く動け動け」という話になるなかで、そこの部分が非常に悩ましいところです。
とにかく被災現場は倒木も土砂崩れもすごいなかで、じゃあお金がいくらくらいあれば復旧するのか、その算段をどうやってつければいいのか、自分自身に経験がないなかで、現場の職員に確認したりしてもなかなか見当もつかない。

杉岡 小規模だったら通常の修繕、営繕というかたちでいけるんですけど、それだけ被害が甚大なものになってしまうと当然復旧に必要なお金もかさんでいくので、手が出せないというか、どうしたらいいのになっちゃいますよね。

村山 そうですよね。

菊池 そういうときに業者との契約を結ぶにあたっては、随意契約になるんですか?

村山 法令上、緊急の必要があるものについては随意契約できることになっています。

杉岡 島田市は先ほどの伊東市のように、ひとつの業者ではなく、市内の建設業組合みたいなところと契約することになっているのですが、実際にはそこで「本当に契約していいの?」ということになってしまう。相手方としてはいいんですよ、絶対にお願いするんですけど、「契約行為までしちゃっていいの?」となる。だって机上で何も弾いていない段階で「じゃあやってよ」ってお願いして、あとで「1億円です」って言われたときに、「その算出根拠なんなの?」ということになってしまうので。

村山 伊東市も協定は土木部門が建設業組合と結んで、工事の発注をするのはそこの組合に依頼して、動ける業者に手をあげてもらって、そこに工事をやってもらう――という協定の仕組みなんですけど、じゃあ実際に発注するにしても、じっくり積算する時間がないなかで、「いくらの契約を結べばいいの?」となる。どこまでやれば被災状況が解消されるのかわからないなかで発注をかけるというのが、実際に今回やってみて想定と現場は違うなと感じました。

杉岡 防災訓練でそういうのもあったほうがいいかもしれませんね。こういったケースで、じゃあここを復旧させるために、財政措置なんかをどうやればいいかとかをシミュレーションして。

村山 予算がないなかで災害が起きました。それを解消するためには当然、市の職員だけではできないので業者に発注しなければいけない。じゃあまず何を準備しなければいけないのかというところが――私たちもとにかく現場で動くことに一生懸命で、契約行為だとか予算の裏付けだとか、そういうのはもう考える間がないですよね。

杉岡 災害が起きている最中はそっちのほうだけに集中しないとですね。

 

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