望月衣塑子 × 前川喜平 特別対談(6/7ページ)

前川 いま望月さんがおっしゃったように、あいちトリエンナーレの補助金不交付というのは、「これは理不尽な話だ、おかしい」と思っている職員は、文化庁のなかにもたくさんいると思います。というか、ほとんどみんなそう思っていると思いますよ。
だけど、組織でいちばん上の意思決定権者が萩生田文部科学大臣ですから、萩生田さんが「やれ」と言ったら逆らえないですよね。
ただね、文化庁長官は、あの人役人じゃないんですよ。

望月 そうなんですよね。

前川 あの人芸術家なんですよ。元々、東京芸大の学長だった人で、金属工芸の表現者なんですよね。あの人くらいは「わたしは納得できません」って言って、辞表を出してもよかったんじゃないかなと僕は思っていて、

望月 (笑)

前川 ちょっと残念ですね。

望月 残念ですね。

前川 あの人自身が表現の自由の世界の人で、まさに芸術表現している人なのに、芸術表現を抹殺するような命令を出す大臣に、結局抗っていない。
憲法15条でいう公務員とは、一般職として試験で採用される公務員もそうだし、公職選挙法で選ばれる国会議員や市議会議員、あるいは首長といった政治家として公職についている人も公務員ですよね。
だからみんな憲法15条でいうところの「全体の奉仕者」なんですけど、政治家というのはどうしても「一部の奉仕者」になりがちなんですね。自分に票を入れてくれる人や資金を提供してくれる人のために働くという動機がどうしても生まれてしまう。
その点、一般職の公務員は票も金もいらないわけだから――まあ、お金はちゃんと税金から給料をもらいますけどね。それで満足していればいいので。もちろん賄賂をもらったり、あるいは自分の息子を裏口入学させるなんてことを考えちゃいけないんですが、

望月 (笑)

前川 基本的には、一般職の公務員のほうが「全体の奉仕者」としての自覚を持ちつづけられる条件があると思うんですね。だから、もし政治家がおかしな方向に行こうとしたときには、一般職の公務員がそれに対する抵抗というか、スタビライザーというか、安定装置として、「そっちに行っちゃまずいですよ」ということを言わなくちゃいけない。
それがいまの安倍政権では完全に効かなくなっている。もう、一般職公務員が「安定装置」としての役割を果たせなくなっていて、上司に「右だ」と言われたら「ははーっ」とみんな右に行ってしまうというのがいまの状況ですね。
この背景には、安倍政権がアメリカ型の大統領制をめざしてきたことがあります。官邸が大統領府のように非常に権限が強くなってきている。すべて官邸に一極集中で、権力も持っているし、政策も自らつくって各省に下ろしてしまうという状況がある。
いっぽう、地方公共団体は元々大統領制ですから、首長の権限が強いですよね。だから都道府県市町村の公務員というのは、知事や市長など、首長の命令によって動く部分が、国の役所に比べて元々大きいと思う。
だからそういった自分のなかの葛藤というものは、むしろ地方公務員のほうが多く経験しているんじゃないかという気がするんですよ。
たとえば、知事や市長が替われば副知事や助役なんかも替わっちゃうし、そういうポリティカルアポイントメント的な部分というものは、従来国よりも地方のほうが強かったんじゃないかなと思いますね。
いまはもう、国のほうもほとんどポリティカルアポイントメントになっていますね。官邸の気に入る人間しかもう上にあがれないんですから。
わたしの場合は、ちょっとそのチェックミスで、次官になっちゃったんですけど。

望月・青池 (笑)

 

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