中野晃一インタビュー


このページは2017年12月16日におこなった、中野晃一氏インタビューの全文を掲載したものです。

話し手=中野 晃一(上智大学教授、市民連合呼びかけ人)
聞き手=林 克(静岡自治労連執行委員長)

 

2017年10月の総選挙では、自公与党がひきつづき3分の2の議席を得たいっぽうで、市民と立憲野党の共闘が存在感を発揮しました。
安倍政権がいよいよ9条改憲の具体化をねらってくるもとで、わたしたち自治体公務公共関係労働者が置かれている状況と、この立憲主義破壊の政治と改憲の策動とのかかわり、そして、全体の奉仕者である公務員のあるべき姿について、「市民連合」呼びかけ人である中野晃一氏(上智大学教授)に尋ねました。

中野 晃一(なかの こういち)

1970年生まれ。東京大学文学部哲学科、オックスフォード大学哲学・政治コース卒業。プリンストン大学で博士号(政治学)を取得。上智大学国際教養学部教授。現在は学部長。専門は比較政治学、日本政治、政治思想。
主な著書に「私物化される国家 支配と服従の日本政治」(角川新書、2018年)、「つながり、変える 私たちの立憲政治」(大月書店、2016年)、「徹底検証 安倍政治」(岩波書店、2016年)、「右傾化する日本政治」(岩波新書、2015年)ほか。
市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)の呼びかけ人として、市民と立憲野党の共闘を後押しつづけている。

 

 選挙があって――非常に波乱万丈の選挙だったのかなという風に思うんです。解散する前後するくらいはわたしたちも一喜一憂していて、「どうなっちゃうんだろう」という感じだったんですが、いちおう立憲野党が一定の地位を占めたんじゃないかなという風に考えています。
この総選挙の結果を受けた政党配置だとか力関係についてどのようにお考えになるのか、それとこれからの野党共闘とどう関係してくるのかということをまずお話を伺えればなと思います。

中野 おっしゃる通り、ちょっと記憶にないくらい浮き沈みのある――選挙戦そのものというよりは、選挙に入る前に激動の状態になったと思うんです。それはやっぱり、立憲野党の共闘が一定程度すすんできて、効力を持っているということに対して、それを壊したいという動きが選挙前に加速したということだったと思うんですね。
その背景にはもちろん、この間ずっと東京で引きずってきた問題として、昨年の参議院選の最中にたたかわれた都知事選があって、その結果を受けての都民ファーストの躍進というものがありました。小池百合子さんの言葉を使えば「改革保守」という言い方をしていますけど、要は対米追随的な経済・安保政策を主導していきたい人たち――安倍さんたちの別働隊みたいなところもありますが、もちろんただの一枚岩ではないです――その勢力というものが、立憲野党と市民の共闘を壊したいという動きだったと思うんです。

結果としてみれば、それを撥ね退けたのがかなり大きなところで、この間冷戦が終わって政界再編というものがすすんできたなかにおいて、いまのような右傾化したというか、一強多弱とも言われますけど――安倍独裁的な状況ができるということに向かっていく過程で、じつはたびたび繰り返されてきたことだという風にわたしは思っているんです。
小泉さんとか、あるいはその前の細川・小沢さんの7党連立政権でもそうでしたが、やっぱり主導権を握るのは、そういった新自由主義的な――いわゆる「改革」というものを標榜する勢力――なんだと思うんですけど、今回はそこに乗っ取られずに済んだ、未然に防ぐことができたということが評価できる点です。
もちろん残念だったのは、立憲野党が壊されないでいくことができたならば、安倍政権を退陣に追い込むことも可能だったかもしれないわけですから、それを考えると安倍政権が続いてしまうということは非常に残念なことではあったのですが、そういう意味での「阻害要因」になってくるようなところに対して、押し戻すことができたというのが大きかったかなという風には思っています。

その関連で言うと、じつは議席配分で見ると、本当に目を覆うような状況というのが残念ながら続いてしまったわけですが、これはもちろん小選挙区制の作用によるものです。実際の得票率とかを見ますと、自民党に関して言えばほとんど動いていない状況が続いているわけですし、やっぱり共闘路線というものは間違っていないということだと思うんです。

さきほどご質問いただいたように、次の課題はどうやってより有効な共闘をつくることができるのかということです。状況を踏まえて考えていかなければならない局面かなという風に思っています。
そのなかでいちばん大きな要因というのは、これまでやっぱり野党共闘ということの――ストレートに言ってしまえば――ひとつの要因というのが、民進党にたがをはめることだったと思うんです。
それはやっぱり民進党というのが、2012年12月に民主党として当時下野をした段階で、本当に弱小になってしまった。最大野党とはいえ本当に議席数を減らしてしまった。しかもそれだけではなくて、執行部層、リーダー層に残った人たちというのが――言ってみれば野田政権を最後まで支えたような人たちですから――そういった意味では民主党結党以来で考えても右に寄っているような布陣だったところがあったんですね。
ところが、そういったかたちに展開するよりかは、むしろ市民と立憲野党の共闘にいわば引っ張られるようなかたちで、特定秘密保護法にしても安保法制にしても、そして直近でいえば共謀罪にしても、いっしょになって反対をしてきたということで、前原さんたちからしてみれば面白くなかったのはそこなんだと思いますね。

ただ今回、立憲民主党というものができて、そういう意味ではよりストレートに共闘的な枠組みがつくりやすい状況にはなったわけですが、それはそれで新たな課題があると言いますか、そのなかでどう考えていくのかというところに、いまきているのかなという風に思っています。

 ありがとうございます。特に静岡なんかは、前原さんの流れ、細野さんの流れが非常に強いところなので、市民連合としても非常に四苦八苦しているところです。またいろいろとアドバイスをいただければなと思います。

 

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市民と立憲野党の共闘が改憲を足踏みさせている

 

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