はじめに

関心いまだおとろえず

「県民合意のない空港は中止すべきだ」「県民サービスを削るような財政危機の中で、空港だけがフリーハンドなのはおかしい」こんな訴えに、静岡市の繁華街では、大きな人だかりができました。これは2002年6月、静岡空港建設の是非を問う住民投票条例が請求されて一年が経過したのを記念して、県下で街頭宣伝が行われたなかの一つです。訴えているのは、「静岡空港・住民投票の会」を改組した「静岡空港・建設中止の会」です。「建設中止の会」ではこの2月から、「空港建設よりくらし・福祉の実現を」の運動にとりくみ、多くの県民に特別養護老人ホーム建設、30人学級実現などの県民要求をハガキに書いてもらうことを訴え、知事宛に届ける運動をしてきました。
この自分の住所も名前も書いて県当局に提出するハガキ行動が、街頭で訴えただけで人だかりができるほど集まるのは驚くべきことです。昨年とりくまれた住民投票制定の運動の影響依然として根強く、静岡空港に対しての関心はいっこうにおとろえを見せていないと感じられます。

29万2484の署名が知事を動かす

「静岡空港・住民投票の会」の運動は、「静岡空港建設の是非は住民投票で決めてほしい」と2000年10月に県内在住の識者14名の呼びかけによってスタートし、翌年3月7日から5月7日の2ヶ月間、署名がとりくまれました。すべての市町村に受任者(署名を集める人)が登録され、29万2484(有効署名は約27万)、静岡県の有権者の1割近い署名(有効署名においては9・00%)を集めました。
5月18日には石川知事が臨時記者会見を開いて、これまで否定的であった住民投票条例制定に賛意を表明しました。会は6月18日に、各市町村選管の審査によって約27万人の有効署名を持って県知事に対して本請求がされ、同21日から始まった6月県議会で審議をされました。7月29日の知事選をはさんで8月も審議が実施されましたが、9月12日条例案は自民党の反対多数で否決されます。
約1年のサイクルでとりくまれたこの運動は、静岡県の民主主義を考える上で大きな足あとを残した運動であったと考えます。それは署名をやっている時の反応の大きさをみても、条例審議の内容を見ても、その後の静岡空港の実現の是非に関する影響の点でもうかがうことができます。

署名の思いを残したい

そして何より、さまざまな人がこの運動に関わった思いは、大きなものがあったといえるのではないでしょうか。県レベルの運動は、とかく規模が大きすぎるために個々の運動にたずさわっている人が見えにくいといえます。しかしそれにもかかわらず、運動のさまざまな場面でこの「思い」が噴出していたのがよくわかりました。
この本は、キチンとその思いを残しておきたい、そしてそれを通じてもう一度静岡空港・住民投票の運動が何であったのかを考えていきたいという思いで書かれています。10年たったときの図書館に、あのとき静岡空港に対して県民のみなさんがこういう気持ちをいだいて運動したんだということがわかる本を、残しておきたいということです。

住民投票の運動が、空港建設を「視界ゼロ」に

条例案が否決されたあと、「署名したけどムダだった」「やっぱりダメだったか」と署名そのものに意味がなかったかのような意見も聞かれました。
しかし私たちはそう考えませんでした。条例案の否決は、県にとって事態の打開をもたらすものではなく、かえって壁にぶち当たるような要因を抱えているのです。なぜならば、県が住民投票を実施しなかったわけですから、県民は県としても推進する自信のない事業だと見なして、「必要ないのでは」の声がますます大きな世論となります。その一方、地権者のみなさんは、住民投票制定署名が盛り上がったことで世論との結びつきを確認しており、条例案の否決でますます土地を売らないという意を強くしています。土地問題を解決しない限りは、静岡空港の開港はありません。この署名にとりくんだからこそ、静岡空港の建設は最終的にはどうなるかわからないところまで来ていると考えます。
したがって私たちはこの本のタイトルを、「静岡空港・視界ゼロ」としました。空港予定地は全国有数のお茶の産地です。いいお茶を育てる丘陵にかかる霧のように、住民投票運動が、この空港開港の視界をさえぎっています。このことを県民にお伝えすることも、この本の大きな役割であると考えています。
この本は、「静岡空港・住民投票の会」が改組した「静岡空港・建設中止の会」事務局と、地域の会などで署名に奮闘したみなさんによって書かれています。それにプラスし特別寄稿として、マスコミとして私たちを取材してくださった毎日新聞記者、斉藤良太さん、県議会連合審査会で住民投票は必要であると専門家の立場から論陣を張ってくださった名古屋経済大学の榊原秀訓教授が読み応えのある文章を寄せていただいています。斉藤さん、榊原先生、そして運動中もポストカードの作成に協力していただき、今回も表紙に空港予定地の野鳥たちの写真とコラムを提供いただいた福与義憲さん、「オオタカ君ポスター」を制作いただいた坂井永年さん、編集担当の深田悦子さんに心から感謝申し上げます。
この本が、地方自治の民主主義的発展を願うすべての人たちの運動にお役に立てれば幸いです。

2002年10月6日
編者を代表して 林  克

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